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2019年09月10日

相続放棄に関する最高裁判所の判決(令和元年8月9日)について(2)

前回からの続き

 最高裁判所昭和59年4月27日判決は、熟慮期間中に相続放棄をしなかったのが、相続財産(負債)が全く存在しないと信じたためであり、そのように信じることについて正当な理由がある場合は、3か月の熟慮期間は、相続財産の全部もしくは一部の存在を認識した時又は通常これを認識しうべかりし時から起算するのが相当であるとして、亡くなってから1年以上経過した相続放棄の申述を適法と判断しました。

 

判決文によると、当該事例は、被相続人(亡Dさん)が定職に就かず、ギャンブルに熱中し家庭内のいさかいが絶えなかったため、Dさんの妻子が次々と家出し、子らとDさんとの親子間の交渉が全く途絶え、家出から約10年経過した後に、Dさんが当該負債である連帯保証債務を締結したというものです。Dさんに資力はなかったのだと思いますが、知人等に頼まれて、1000万円もの連帯保証人になることを断りきれなかったのだと思います。

 

その後、Dさんは生活保護を受け一人暮らしをしていましたが、体調を崩し、医療補助を受け入院、上記保証債務の請求訴訟中に亡くなったものです。

 

Dさんの子の一人は、民生委員から知らされて、入院中のDさんを3回も見舞いましたが、保証債務等についてDさんから説明を受けたことはなく、また、Dさんの死後、葬儀は行われず、遺骨も寺に預けられたという事情で、子らは、Dさんの連帯保証債務の存在など知る由もなかったのです。その後、子らは、一年ほど経過した後に裁判所からの通知(送達)により、当該連帯保証債務の存在を知ったものです。

 

同判決は、上記の事情等を「正当な理由」として、3か月の熟慮期間の起算点を、上記送達日からであると判断したものです。

 

※多少それますが、「通常これを認識しうべかりし時」とは、本人が認識していなくても、通常であれば、認識したであろう事情が存在したならば、その時、というところでしょうか。上記事例でいえば、裁判所からの送達が届いていたにもかかわらず、中身を見ずに負債の存在を認識できなかったとしても、認識したものと見なされてしまうということです。したがって、郵便物、特に書留(配達した記録が残る郵便等)は、必ず、中身を確認するようにしましょう!これらを軽く考えて対応を怠ると、莫大な借金を背負うなど、大変なことになる…かもしれません。

 

話を戻しますが、以下は、経験則に基づく主観的な感想ですが、相続放棄に関する裁判所の運用は、上記最高裁判決よりも「正当な理由」の要件を緩やかにしているように思われます。熟慮期間経過後であっても、債権者からの請求書等の疎明資料(簡単な証拠のようなもの)を付けて、請求書の日付から3か月以内に申請すれば、相続放棄の申立を受理してくれます。ただし、家庭裁判所において相続放棄の申述が受理されたからといって、確定的に相続放棄の法的効力が認められたものではありません。家庭裁判所は、あくまでも相続放棄の申請が受理されたことを証明してくれるだけですから、後日、債権者から訴訟等により相続放棄の効力を否定され、負債を相続させられる可能性は残ります。

 

しかし、何もしないでいると、一定期間経過後に相続の単純承認(相続することを認めたこと)になってしまいますので、亡くなった被相続人に借金等の存在が明らかになったときや、先順位の相続人が相続放棄をしたことを知った場合には、極めて迅速に、相続財産(負債も含め)の調査を行い、相続放棄をするか否か検討する必要があります。これを軽く考えて何もしないでいると、法的に、被相続人の借金を払わないといけないという、恐ろしいことになってしまいます(民法912条2号)。
(なお、本稿において、限定承認の説明は省略させていただきます)

 

 (法定単純承認)

第九百二十一条 次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。

一 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第六百二条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。

二 相続人が第九百十五条第一項の期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき。

三 相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、この限りでない。

 続く

 司法書士 大関 彰